[tension & relaxation]
-「M-1 グランプリ2001」TV観戦記-

■はじめに。　
2001年12月25日午後6時30分より東京メディアシティにて，「M-1グランプリ2001」の決勝が行われた。「M-1グランプリ」とは優勝賞金1000万円をめぐってプロ・アマ・所属事務所を問わず，結成10年以内の漫才コンビが漫才界の事実上の頂点を決する大会である。ここでは，オクダがブラウン管を通してみたM-1への雑感を掲載してみます。

■審査方法　
決勝1回戦は西川きよし/青島幸男/春風亭小朝/鴻上尚史/ラサール石井/松本人志/島田紳助(大会委員長)の7人の特別審査員それぞれ100点(計700点)の持ち点と，大阪・札幌・福岡の3会場にいるそれぞれ100人(計300人)の一般審査員それぞれ1点(計300点)あわせて1000点で競われる。その10組のうち獲得点数の上位2組が最終決戦に駒を進め，最終決戦では7人の特別審査員が一人一票をどちらかのコンビに投票し，その上位得点者が優勝となるという制度であった。一般審査員のいる大阪会場が吉本のお笑い総本山のなんばグランド花月(NGK)であるというのが，勝敗に大きく影響したのだが…。

■決勝1回戦 演順抽選　
ハコの中のボールをそれぞれのコンビが引き，決勝1回戦を闘う10組の演順が決まった。1番目が中川家，10番目がハリガネロック，と優勝候補と思われた２組が頭と尻におさまった。ここで，中川家のことを知る誰しもが危惧しただろう，剛兄ちゃんはアガらないだろうか…，と。そういや，ラサール石井は「中川家の兄ちゃんは(緊張で)死んでるんちゃうやろか」などと言っていたが，彼はきちんと笑いの現状をみているね，審査員として相応しい。
01.中川家 / 02.フットボールアワー / 03.チュートリアル / 04.アメリカザリガニ / 05.おぎやはぎ
06.キングコング / 07.麒麟 / 08.ますだおかだ / 09.DonDokoDon / 10.ハリガネロック

■01.中川家　
メンバー：中川剛/中川礼二　結成：1992年　所属：吉本興業
受賞歴：第30回上方漫才大賞新人賞，第17回ABCお笑い新人グランプリ最優秀新人賞
上演直前の兄の表情を見るに，これはヤバイんじゃ…とファンとして心配をするも，結果その不吉な予感は杞憂に終わった。さすがに板を多く踏んでいるだけのことはある。何度も見たネタであるが，見るたびに小さなクスグリをプラスしていて，より熟成している。本当にスバラシイ。それはいいが，司会(?)の菊川玲，なんだコイツ。演目を終わったあとの演者に無口無表情にマイクを突き出すだけのインタビューなんてイマドキ高校の学園祭でもないぞ。
札幌：65点　大阪：89点　福岡：79点
　西川きよし：91点　青島幸男：90点　春風亭小朝：90点　ラサール石井：90点
鴻上尚史：85点　松本人志：70点　島田紳助：80点
　　(一般審査員合計233点　特別審査員合計596点　総計829点)
まずはトップバッターということで，特別審査員はとりあえずの基準をここで設定したと思う。

■02.フットボールアワー　
メンバー：岩尾望/後藤輝基　結成：1999年　所属：吉本興業
受賞歴：第21回ABCお笑い新人グランプリ最優秀新人賞　第31回NHK上方漫才コンテスト優秀賞
フットボールアワーを優勝候補に挙げるものは少なかったであろう。ボケの岩尾はいつもながらのボケを展開しており，全力に近い力を発揮していたのではないだろうか。
札幌：62点　大阪：83点　福岡：46点
　西川きよし：90点　青島幸男：80点　春風亭小朝：80点　ラサール石井：82点
鴻上尚史：82点　松本人志：55点　島田紳助：66点
(一般審査員合計191点　特別審査員合計535点　総計726点)
全審査員が中川家より下と判断している結果となった。中川家が基準となってそれ以降の組は迷惑だったろうな。不運と思われた中川家だったが，結果的に幸運だったのかもしれない。西川きよしが90点を出していることは，きっと彼は議員として無難にこのへんで抑えるのかと思った(その予想はチュートリアルは80点に出していることで外れるコトになったのだが)。

■03.チュートリアル　
メンバー：徳井義実/福田充徳　結成：1998年　所属：吉本興業
受賞歴：第21回ABCお笑い新人グランプリ優秀新人賞
京都出身のなかよしコンビ，完全燃焼だったんじゃないだろうか。ただ，昔話につっこみを入れるというネタの志向には手垢がつきすぎていたんじゃないだろうか…。
札幌：38点　大阪：67点　福岡：49点
　西川きよし：80点　青島幸男：75点　春風亭小朝：75点　ラサール石井：68点
鴻上尚史：75点　松本人志：50点　島田紳助：60点
(一般審査員合計154点　特別審査員合計483点　総計637点)
特別審査員全員が中川家さらにはフットボールアワーよりも低評価となった。仕方ないな。

■04.アメリカザリガニ　
メンバー：柳原哲也/平井善之　結成：1995年　所属：松竹芸能
受賞歴：第19回ABCお笑い新人グランプリ審査員特別賞　第28回NHK上方漫才コンテスト最優秀賞
第27回上方お笑い大賞銀賞　第34回上方漫才大賞新人賞
アメリカザリガニ，さすが。ネタの設定もすばらしい，平井の細かなボケ，柳原のバリエーションのあるツッコミ，すべてにおいて最高に近い出来だった。しかし…，
札幌：84点　大阪：57点　福岡：87点
　西川きよし：88点　青島幸男：85点　春風亭小朝：80点　ラサール石井：92点
鴻上尚史：84点　松本人志：65点　島田紳助：74点
(一般審査員合計228点　特別審査員合計568点　総計796点)
アメリカザリガニが松竹芸能に所属していたことはここで大きな逆風となった。札幌・福岡では中川家を越す80点オーバーの高得点を叩き出しているアメザリであったが，大阪会場ではなんとチュートリアルより10点も低い57点という結果…。暫定2位という結果で誤魔化された節もあるが，これは公正さという面から見て大きな問題である。大阪会場の得点抜きの900点満点で計算すると，アメリカザリガニは739点，ハリガネロックは724点で，アメザリは決勝進出できていた…。この灰色の結果は次回以降のM-1に負わされた大きな課題のひとつであろう。

■05.おぎやはぎ　
メンバー：小木博明/矢作兼　結成：1995年　所属：人力舎
受賞歴：なし
東京よりの唯一の決勝進出コンビということで，期待していたのではあるが，同じボケを何度も重ねるは，小道具を繰り出すは，ハガキ職人的な笑いであるし，まったくその淡い期待を裏切られる結果であった。
札幌：22点　大阪： 9点　福岡：12点
　西川きよし：77点　青島幸男：80点　春風亭小朝：75点　ラサール石井：82点
鴻上尚史：73点　松本人志：60点　島田紳助：50点
(一般審査員合計43点　特別審査員合計497点　総計540点)
次回以降の東京勢の巻き返しを期待。

■06.キングコング　
メンバー：西野亮廣/梶原雄太　結成：1999年　所属：吉本興業
受賞歴：第30回NHK上方漫才コンテスト最優秀賞　第22回ABCお笑い新人グランプリ最優秀新人賞
　第36回上方漫才大賞新人賞
オクダは個人的に彼らが大嫌いなのです。関西では女子中高生を中心にアイドル的な人気を誇る彼ら，して，その笑いの質はといえば，勢い任せの部分が大いにあり，面白くないといわざるを得ない。それは，まるで初期ナインティナインやぜんじろう&月亭かなめのような愚にもつかないものである。一度滑ったギャグを更に重ねる点も辛かったもんだ。また，それ以上に感づいた点として，この本は彼らの作品ではないことは火を見るより明らかであることである。彼らは20歳そこそこであるはずなのに，彼らが演じるのはそれよりは世代隔世感のある古いネタであったのである。まったく，そこまでして彼らを持ち上げたいのか吉本興業は。
札幌：64点　大阪：55点　福岡：60点
　西川きよし：95点　青島幸男：75点　春風亭小朝：70点　ラサール石井：76点
鴻上尚史：83点　松本人志：55点　島田紳助：74点
(一般審査員合計179点　特別審査員合計528点　総計707点)
まず，ここで気に掛かったのが，彼らの本拠地の大阪での55点という低得点。これは，このときのネタの出来不出来以上に，彼らのアイドル的人気を妬み恨む"お笑いファン"からの白紙投票であるとみてとれよう。また，それ以上に島田紳助からの高評価，これはいかがなものか。たしかに，こういった若さに全てを凭れかかった芸風は，紳助竜介の全盛期を彷彿とするものであるが，ここに何らかの意思を感じざるを得ない。今すぐ，紳助は「紳助の人間マンダラ」を辞めるべきだろう。

■07.麒麟　
メンバー：田村裕/川島明　結成：1997年　所属：吉本興業
受賞歴：第２回笑わん会優秀賞
麒麟である。「ナンバ壱番館」で彼らをはじめて知ったのだが，ネタを見るのはこれがはじめてだった。とてもメタな構成で，あ，これは新しいな，シャンプーハットの勃興に通じるな，と思った。ただ，川島明の声が小さく，展開の切り替わりが判りにくかったのは残念である。3本指のピースサインはキングコングの急造パロディだったのであろうか。なんにしろあれが，ただのパロディではなく"愛しさとせつなさと心強さと"という意味を持たしたのは大きかった。
札幌：54点　大阪：82点　福岡：63点
　西川きよし：79点　青島幸男：75点　春風亭小朝：65点　ラサール石井：90点
鴻上尚史：83点　松本人志：75点　島田紳助：75点
(一般審査員合計199点　特別審査員合計542点　総計741点)
麒麟，ダークホ−スとして大健闘の結果であろう。純粋にほかのネタも見てみたい。

■08.ますだおかだ　
メンバー：岡田圭右/増田英彦　結成：1993年　所属：松竹芸能
受賞歴：第15回ABCお笑い新人グランプリ最優秀新人賞　第24回上方漫才コンテスト最優秀賞
　第29回上方漫才大賞新人奨励賞　第36回上方漫才大賞奨励賞
ますおか，どうしたんだ！。これはネタのチョイス間違いだろう，ちょっと手馴れすぎたな。増田が岡田を"寒い"といじって笑いを誘うのは，やはりそういうイメージが確立した場で展開すべきものであるものであって，岡田の母いじりなどは楽屋落ちにすぎないのである。同じ種のネタを得意とするハリガネがそれを封じたのはまさに賢明であったろう。
札幌：75点　大阪：52点　福岡：68点
　西川きよし：95点　青島幸男：80点　春風亭小朝：80点　ラサール石井：88点
鴻上尚史：84点　松本人志：70点　島田紳助：78点
(一般審査員合計195点　特別審査員合計575点　総計770点)
今回のM-1で，ますおかは中川家に負けたことは大したことではない。アメリカザリガニに負けたことが大きいんだよ。

■09.DonDokoDon　
メンバー：山口智充/平畠啓史　結成：1994年　所属：吉本興業
受賞歴：なし
ドンドコ山口，モノマネを封じてきたな。それは予想できたことだが，やはりネタの古さが目に付いたな。それにフットボールアワーとネタが被る点が２つあったのは不運だったな。
札幌：47点　大阪：18点　福岡：29点
　西川きよし：75点　青島幸男：85点　春風亭小朝：65点　ラサール石井：82点
鴻上尚史：84点　松本人志：65点　島田紳助：64点
(一般審査員合計94点　特別審査員合計520点　総計614点)
一般審査員の評価の低さ，松本は「大阪の客は頭オカシイ」と発言していたが，それは違うだろう。小朝の「関脇の人が横綱相撲をとっちゃったみたいな感じ」と評していたが，それは言い得て妙，やはり客の期待への裏切りが低評価につながったのであろう。所詮そんなもん。

■10.ハリガネロック　
メンバー：松口祐樹(ユウキロック)/大上邦博　結成：1995年　所属：吉本興業
受賞歴：第18回ABCお笑い新人グランプリ最優秀新人賞
　第27回NHK上方漫才コンテスト最優秀賞　第33回上方漫才大賞新人賞
ディスイズロック！。松口ってヤツはカッコイイな。ドンドコとは逆に彼ら独特の刃をより研ぎ澄まして，1000万円に飛び掛かってきやがったな。これぞ邪道の美しさ。
札幌：85点　大阪：85点　福岡：72点
　西川きよし：95点　青島幸男：90点　春風亭小朝：70点　ラサール石井：92点
鴻上尚史：85点　松本人志：60点　島田紳助：75点
(一般審査員合計242点　特別審査員合計567点　総計809点)
ということで，最終決戦には中川家VSハリガネロックのNSC同期生対決になった。しっかし，ほんとにアメザリは惜しいことをしたなぁ…。

■最終決戦を経て　
そして中川家とハリガネロックが別演目を繰り広げ，特別審査員の投票となった。西川きよしの1票を除いて，6人は中川家に投票，優勝は優勝候補の筆頭と目された中川家になり，第1回M-1グランプリは初回を飾るにふさわしい結果で締めくくられた。審査方法や司会者などに課題は山積みであるが，今後ともオートバックス社には日本のお笑い文化への貢献のために，この大会を続けていってもらいたい。なんにしろ，楽しませてもらいました!!!。

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